第24回ミラートランスレーション(その11:WIPOの立場)
シリーズ「特許法の国際比較」
1.概要
一度、振り出しに戻ってWIPOの立場を確認してみましょう。WIPOは、特許協力条約(PCT)第27条で立場を明確にしています。すなわち、WIPOは、原則として実体的な補正については各国の判断に委ねて、WIPOは、各国の判断を拘束しないとしています。
ただし、PCT46条は、些細な誤訳を理由に特許を無効とできないとしています。ただし、その具体的な判断は、各国の国内法令に委ねられます。
2.WIPOのガイドライン
WIPOは、PCT出願人の手引きにおいて国際出願の翻訳文に誤りがある場合について規定しています。この規定は、実体的補正が各国に移行してから可能であることを明確化しています。
PCT出願人の手引き(PCT Applicant's Guide - National Phase)
http://www.wipo.int/pct/ja/guide/
翻訳文の補充
6.002.出願人は国際出願の翻訳文の誤りを補充することができるのか。
国際出願の翻訳文に誤りがある場合、国内段階において、すべての指定官庁に対しその誤りを補充することができる。
6.003.しかし、国際出願の翻訳文の範囲は原語の国際出願の範囲を超えるものであってはならない。たとえば、不正確な翻訳の結果、翻訳文の原語の国際出願の範囲が原語の国際出願の範囲よりも狭い場合には、その範囲を広げることができるが、原語の国際出願の範囲を超えるものであってはならない。翻訳文の範囲が原語の国際出願より広い場合、指定官庁又は指定国のその他の権限のある機関は、それに応じて国際出願若しくはこの国際出願で与えられた特許の範囲を限定することができる。
(参考)特許協力条約(PCT)第27条国内的要件
(1)異なる要件
国内法令は、国際出願が、その形式又は内容について、この条約及び規則に定める要件と異なる要件又はこれに追加する要件を満たすことを要求してはならない。 →これは、単に特許法の実体的要件(特許性の基準など)を意味するものではないという意義に用いられているそうです(ワシントン外交記録:第553頁、第649頁)
(5)特許性の条件
この条約及び規則のいかなる規定も、各締約国が特許性の実体的な条件を定める自由を制限するものと解してはならない。特に先行技術の定義に関するこの条約及び規則の規定は、専ら国際的手続について適用されるものであり、したがつて、いずれの締約国も、国際出願に係る発明の特許性を判断するに当たつて、先行技術その他の特許性の条件(出願の形式及び内容に係るものを除く)に関する国内法令上の基準を適用する自由を有する。
→これは、各国が実体規定について自由に定めることができる旨を確認的に規定しています。
藤岡隆浩
弁理士・知的財産翻訳検定試験委員
日本弁理士会 欧州部長および国際政策研究部長を歴任
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