第36回サントリーがアサヒのドライゼロを特許侵害と主張
サントリーホールディングスがアサヒビールに対して、「ドライゼロ」がサントリーの特許を侵害するとして訴訟を提起し、アサヒビールによる侵害はないと判断されたケースを前回伝えました。
東京地裁の判決(H27(ワ)102号、平成27年10月29日)が公表されました。
サントリーの特許は進歩性がなく、権利の行使が制限されるという判断でした。
進歩性なしの根拠の一つとして、アサヒビールの「ダブルゼロ」が登場しています。ダブルゼロは糖質が0.9 g/100mlであり、サントリーの特許は糖質が0.5 g/100 ml以下です。
糖質ゼロのビールは消費者から支持されているから、つまり糖質を減少させることの「動機付け」があるということです。判例によれば、「栄養表示基準(平成15年4月24日厚生労働省告示第176号)」では、糖質0.5g/100 ml未満であれば、糖質が含まれていないことを表示できるとしている、とのことです。
ダブルゼロは糖質が0.9 g/100mlです。それ以外のpH、エキス分総量の値は重なっています。糖質だけを少なくしており、これが容易に想到できるということです。先行技術と完全に一致していれば新規性がなく、一部は異なるがそれは容易に考えつく、そしてそのことに顕著な効果がなければ進歩性なしです。
With respect to the case in which Suntory Holdings filed an infringement lawsuit against ASAHI BREWERIES, the Tokyo District Court decision that judged that ASAHI BREWERIES has not been infringing Suntory Holding’s patent was announced (2015 (wa) No. 1025 dated October 29, 2015).
It was held that Suntory Holding’s patent has no inventive step, and its exercise of the patent right shall be restricted.
One basis for negating an inventive step of Suntory’s patent is ASAHI BREWERIES’s “W-ZERO”, which has sugar content of 0.9g/100ml. It was judged that Suntory’s patent has a low sugar content of 0.5g/100ml or less, which could have been easily conceived from “W-ZERO”.
It was held that beers with zero sugar content are supported by consumers so there is motivation to decrease sugar content. According to this court decision, “Nutrition Labelling Standard” (Ministry of Health, Labour and Welfare notice No. 176 of April 24, 2003) provides that the sugar content of less than 0.5g/100ml may be indicated as “containing no sugar content”.
The sugar content of “W-ZERO” is 0.9g/100ml while that of Suntory’s patent is 0.5g/100ml or less, but both beers have the same pH and total amount of extract components.
The Tokyo District Court judged that decreasing the sugar content could have been easily conceived.
An invention that is the same as the prior art has no novelty, while an invention having a partial difference from the prior art that could have been easily conceived has no inventive step unless the difference produces remarkable effects.
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
- 改正・米国特許法のポイント
バックナンバー
- 第294回2021.05.27
ファーストリテイリングがアスタリスクの特許を無効としようとしたが、知財高裁で敗訴 - 第293回2021.05.20
コロナワクチンの特許放棄の問題 - 第292回2021.05.13
「ステーキ宮のタレ」のレシピを掲載したことが話題 - 第291回2021.05.06
「お風呂が沸きました」のメロディーが音商標登録 - 第290回2021.04.29
炊飯をつくる方法特許 - 第289回2021.04.22
イオンが「ジャスコ」商標を出願 - 第288回2021.04.15
特許庁から漫画の審査基準が発行されました - 第287回2021.04.08
音楽教室訴訟が最高裁に上告される - 第286回2021.04.01
音楽教室での演奏に著作権使用料発生?の判決 - 第285回2021.03.25
ドトールから考えるブランドの高級感