第39回サントリーとアサヒビールのノンアルコールビール訴訟(4)
サントリーホールディングスとアサヒビールのノンアルコールビール訴訟では、サントリーホールディングス(以下「サントリー」という)の特許(5,382,754号)が、既存の製品であるサントリーの「オールフリー」から容易に考え出すことができる、として進歩性を否定されています。
アサヒビールのドライゼロがサントリーの特許を侵害するかどうか、という訴訟なのに、サントリーの特許とサントリーのオールフリーの比較の話ばかり私も述べており、「何の訴訟だっけ?」と一瞬、混乱されるかもしれません。そうです。ここではサントリーの特許が進歩性があるかどうかが判断されているのです。侵害訴訟ではよくあることです。
オールフリーのpHと糖質は上記特許の範囲内に入っていますが、エキス分は上記特許がオールフリーより高くなっています。エキス分だけを高くしたことが容易に考え出すことができる、と判断されています。
これは特許・実用新案審査基準(特許庁)でいう「数値範囲の最適化」(第Ⅲ部特許要件、第2章 新規性・進歩性(特許法第29条第1項・2項、第2節 進歩性)です。
このように数値を最適化したに過ぎなくても、顕著な効果があれば進歩性が認められるのですが、顕著な効果が認められなかったということです。
エキス分を増加させると飲み応えが向上しますが、エキス分増加→飲み応え向上は、周知であり、顕著な効果とは認められませんでした。エキス分のみを取り出すのではなく、pH、糖質の含量とセットで判断すべきとサントリーは主張しますが、エキス分の値のみ増加されていることがここで進歩性の問題になっています。
In the lawsuit between Suntory Holdings (hereinafter referred to as “Suntory") and Asahi Breweries, the Tokyo District Court judged that Suntory Holdings' patent (No. 5,382,754) could have been easily conceived based on Suntory's existing product “ALL-FREE", and its inventive step was negated.
In this lawsuit, it is contested whether “DRY ZERO" of Asahi Breweries infringes Suntory's patent right or not; however, I am only stating the comparison of Suntory's patent and Suntory's All FREE", which may cause you confusion, “What's the topic of this lawsuit"? Yes. It is determined if Suntory's patent has an inventive step or not. This frequently occurs in infringement litigations.
pH and the sugar content of this patent covers those of “ALL-FREE" but the total amount of extracts of this patent is larger than that of “ALL-FREE", which was found to have been easily conceived.
This is “optimization of the range of numerical values" stated in Examination Guidelines for Patent and Utility Model (Part III Patentability, Chapter 2 Novelty and Inventive Step (Article 29(1)(2) of the Patent Act, Section 2 Inventive Step). If such optimization of numerical values produces remarkable effects, an inventive step is affirmed, but remarkable effects were not identified.
Increasing the total amount of extracts improves the feeling for drinking, which is found to be well-known and is not found as a remarkable effect.
Suntory insists that a combination of the total amount of extracts, pH and sugar content should be determined as one set without extracting only the amount of extracts, but increasing only the amount of extracts caused the problem of an inventive step.
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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