第63回職務発明の規定を整備
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
最近、事務所のクライアントから、「これを機会に」職務発明の規程を作成したい、という相談が多くなりました。
「これを機会」とは、今年の4月に職務発明の改正を含む改正特許法が施行されたことを指しています。
これについては本ブログでも伝えてきましたが、まとめると次のようになります。
- これまでは職務発明は発明者(従業員)に必ず一旦は最初に帰属したが、改正後は、勤務規則などにより会社に最初から帰属することがある(改正特許法36条2項)。
- その場合は相当の利益を従業員は得られるが(36条4項)、これには金銭に限らず、留学、昇進の機会なども含まれる。
- 相当の利益の決定等に関して、指針(ガイドライン)が経済産業大臣により、産業構造審議会の意見を聴取して策定されること(36条6項)
このガイドラインはすでに特許庁ウエブサイトで発表されています(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm)
「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)」(経済産業省告示 第131号(平成28年4月22日))
(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/files/shokumu_guideline/guideline_02.pdf)
クライアントが「職務発明の規程を作成」というのは、対価を決定するための社内規程等を指しています。そしてこの規程は、上記指針(ガイドライン)に沿うことが必要です。
この指針(ガイドライン)では、「金銭以外の相当の利益の付与」の例として、
会社負担の留学の機会付与、
ストックオプションの付与、
金銭的処遇の向上を伴う昇進、昇格
法令、就業規則等に規定される所定の日数、期間を超える有給休暇の付与、
職務発明の特許権について専用実施権や通常実施権の設定、許諾、
が挙がっています(「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)」第28〜29ページ、「第3その他」「3」)。
Many of my clients have asked for my advice on preparation of a regulation of an employee's invention on “this occasion".
“This occasion" refers to enforcement of the amended Patent Law in April 2016.
The amended provision of employee's inventions that was announced in this blog is summarized as follows:
- An employee's invention had originally belonged to an inventor (an employee) under the prior Patent Law, but the amended Patent Law provides that an employee's invention may originally belong to a company as an employer pursuant to an employment regulation, etc. (Article 36(2) of the amended Patent Law)
- In case of i), namely if an inventor's invention belongs to the company, the employee can receive reasonable benefits (Article 36(4)) including money, and chances to study abroad, promotion, etc.
- Guidelines for reasonable benefits, etc., shall be established by the Minister of Economy, Trade and Industry, hearing opinions of the Industrial Structure Council (Article 36(6)), which had been already published on the JPO website (https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/shokumu_guideline.htm)
“Guidelines under Article 36(5) of the Patent Law"
(publicly noticed by the Ministry of Economy, Trade and Industry on April 22, 2016, No. 131)
(https://www.jpo.go.jp/seido/shokumu/files/shokumu_guideline/guideline_02.pdf)
“Preparing a regulation of an employee's invention" stated by my clients refers to an in-house regulation, etc., which shall be in compliance with the aforementioned guideline.
This guideline lists examples of “giving reasonable benefits other than money", such as:
giving chances to study abroad for which a company will pay;
giving stock options;
offering promotion involving enhancement of monetary treatment;
giving paid holidays for the number of days or the period exceeding those provided under laws and labor regulations;
granting exclusive and non-exclusive licenses on patent rights of employees' inventions
(“No. 3 Others", “3" on pages 28 to 29 of “Guidelines under Article 36(5) of the Patent Law").
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
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