第120回進歩性における「動機づけ」
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
発明が先行技術からみて進歩性があるかどうかを判断する際に、「動機づけ」があるかが一つの基準になります。話題になったノンアルコールビール訴訟の判例を読んでいて、サントリーの特許(5,382,754号)は、アサヒビールの「ダブルゼロ」からみて進歩性がないと判断されています。
エキス分総量 | pH | 糖質 | |
---|---|---|---|
サントリーの特許 | 0.5〜2.0 wt/% | 3.0〜4.5 | 0.5 g/100ml 以下 |
ダブルゼロ | 1.07 wt/% | 3.05 | 0.9g/100ml |
この表からわかるように、サントリーの特許がダブルゼロと異なるのは、糖質量のみです。エキス分総量とpHはダブルゼロがサントリー特許の範囲内に入っています。
糖質を0.5g/100ml以下としたことについて、「動機付けがある」という理由で進歩性なしとされました。
裁判所は以下の事実を認定しました。
健康志向の高まりにより、「糖質ゼロ」と表示されている商品が消費者から支持されていたこと、栄養表示基準(平成15年4月24日厚生労働省告示第176号)では、糖質を100ml当たり0.5g未満とすれば糖質ゼロと表示できること、という事情があり、この事情を背景にすると、糖質を0.5 g未満に減少させることは、強い動機付けがあったということです。
「糖質の含量を100ml当たり0.5g未満に減少させることに強い動機付けがあったことが明らかであり,また,糖質の含量を減少させることは容易であるということができる。そうすると,相違点に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである」(平成27(ワ)1025号、東京地裁)。
つまり糖質の含量を0.5g未満に減少させることは容易であり、しかも健康志向の高まりという事情があり、これを解決するという動機づけがあったという意味です。
このように背景事情と先行技術を組み合わせたり、引例と周知技術を組み合わせることに「動機付け」がある場合、本発明は進歩性なしと判断されることがあります。
One of the criteria when determining if an invention has an inventive step over prior art is whether or not the invention is externally motivated. In a popular non-alcoholic beer court decision, Suntory's patent (No. 5,382,754) was judged to have no inventive step over Asahi Beer's “Double Zero".
Total amount of extracts | pH | Sugar | |
---|---|---|---|
Suntory's patent | 0.5~2.0 wt% | 3.0~4.5 | 0.5g/100ml or less |
Double Zero | 1.07 wt/% | 3.05 | 0.9g/100ml |
As seen from this table, Suntory's patent is different from Double Zero only in the amount of sugar; the total amount of extracts and pH of Double Zero are within the scope of those of Suntory's patent.
Decreasing the sugar content to less than 0.5g/100ml was judged to have no inventive step because “it had been motivated".
The court recognized the following circumstances for Suntory decreasing its sugar content to less than 0.5g: due to rising health consciousness, consumers had begun supporting goods indicating “zero sugar content"; and according to the Nutrition Labeling Standards (April 24, 2003, MHLW Notification No. 176), sugar content of less than 0.5g/100ml can be indicated as “zero".
Considering these circumstances, decreasing sugar content to less than 0.5g was deemed to have been strongly motivated.
The court stated that:
It is apparent that decreasing the sugar content to less than 0.5g per 100ml had been strongly motivated, and decreasing sugar content itself is easy. Accordingly, the configuration of the present invention pertaining to its differences from “Double Zero" could be easily conceived by a person skilled in the art. (Heisei 27 (wa) No. 1025, decided by Tokyo District Court)
In other words, decreasing the sugar content to less than 0.5g is easy, and in this case, was clearly motivated by consumer health consciousness.
In this way, if motivations are found by combining background circumstances with the prior art or combining references with well-known art, the present invention may be determined to have no inventive step.
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
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