第121回進歩性における「動機づけ」(2)
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
前回のブログで進歩性判断の際の「動機づけ」について述べました。先行技術を組み合わせることに動機づけがあれば本発明は進歩性なしと判断されることがあります。
ごく簡単な例を挙げます。
Aという物質を野菜の抽出液に混ぜると甘みが増す、という技術常識があり、
甘みの多い野菜ジュールが求められているという事実があり、
しかし現在のある野菜ジュールBは甘みが足りない場合
野菜ジュースBの他の条件を変えずに、Aという物質を混ぜた野菜ジュースの発明は「動機づけ」ありとされることがあります。
動機付けは要するに、組み合わせることに動機づけがあるということです。
審査官は拒絶理由で先行技術、引例、周知技術を組み合わせることに「動機づけがあったから進歩性ない」ことを述べます。
これに対し出願人は組み合わせることに「動機づけはない」と反論します。単に組み合わせるだけではなくそれにより顕著な別の効果が出れば、進歩性ありと反論することもできます。たとえば上のジュースの例で、物質Aを入れることにより体を温める効果も出れば顕著な効果ありといえます。
In my previous blog post, I explained “motivation" when determining if an invention has an inventive step. If combining prior art is motivated, an invention may be determined as having no inventive step.
Here is a very simple example.
Assuming that: it is common technical knowledge that mixing substance A with vegetable extracts can increase their sweetness; there is strong evidence that vegetable juices rich in sweetness are desired by consumers; and the existing vegetable juice B has insufficient sweetness.
Under such circumstances, an invention made by mixing substance A in vegetable juice B without modifying any other conditions may be determined as “motivated".
Motivation means, in summary, that there was external motivation for combining A and B.
An examiner would then state in a notification of reasons for refusal that combining prior art, cited references and/or well-known art had been motivated and thus the invention has no inventive step.
Against this, the applicant could argue that the combination is “not motivated".
The applicant could also argue that the invention is not only a combination but produces other notable effects as well, giving it an inventive step. For example, in the above juice scenario, if mixing in substance A produces an effect of warming the body, it may be affirmed as having a notable effect, and thus an inventive step.
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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