第122回先行技術を記載する義務
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
明細書には出願人が先行技術を記載する義務があります。アメリカではIDS(情報開示陳述書)を提出するのと同様です。
根拠は日本特許法36条4項2号であり、特許受けようとする者が知っている「文献公知発明が記載された刊行物の名称その他のその文献公知発明に関する情報の所在」を明細書の【従来の技術】に記載することになっています。
公知技術文献として、主に先行特許出願の公開公報の番号を記載しますが、これがないときは「従来は〜するのが事実であった」という周知事実を記載するだけでなく、これに関連するウエブサイトをURLと共に記載します。
たとえば特許第4959723号は金融商品を定期的に売却するシステムの特許です。この従来技術では
「従来、特定の株式や投資信託を定期的に購入し、顧客の資産形成を計画的にサポートする金融サービスは存在していた」という従来技術が記載されており、毎月の給料から自動的に自社株を購入するシステム(非特許文献1)、「1口1万円以上」で自動的に投資するシステム(非特許文献2)が記載されています。
既存の事実しか記載せず、公開公報やウエブサイト名を記載しないと、審査官から通知され、その際は意見書や補正書を提出して公知技術文献を記載したり、これらを知らない理由を記載する必要があります。
An applicant is obliged to state prior art in their patent specification. This is similar to submitting an Information Disclosure Statement (IDS) in the US.
The Japanese system is based on Article 36(4)(ii) of the Japanese Patent Law, which states that a person who seeks to obtain a patent “shall provide the source of the information concerning the invention(s) known to the public through publication such as the name of the publication and others" in the [Prior Art] section of the specification.
As publicly known literature, the issue numbers of official gazettes containing earlier patent applications are ordinarily stated, but if there are no such official gazettes, applicants shall not only state the well-known fact that “conventionally, ... has been present" but also any relevant website names with URL.
For example, Japanese Patent No. 4,959,723 is for a system that regularly sells off financial products, and states as prior art that “conventionally, financial services for regularly purchasing specific shares or investment trusts and systematically supporting customers' asset formation have been present" with a system for automatically purchasing shares of one's own company with monthly salaries (Non-Patent Literature 1), and a system for automatically making “one investment of more than 10,000 yen" (Non-Patent Literature 2).
If only existing facts are stated, with no official gazettes or website names included, an examiner will order the applicant (or their attorney) to state publicly known literature or reasons why he/she is not aware of them by submitting an argument or amendment to the application.
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
- 改正・米国特許法のポイント
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