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翻訳コラム

COLUMN

第129回クレームの明確性に違反しない場合

2017.12.21
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子

クレームの記載は明確でなければならないということが、特許法36条に規定されています。不明確なことばとして「約」「およそ」「略」「実質的に」「本質的に」などが特許・実用新案審査基準(特許庁)に挙がっています(第 II 部 第 2 章 第 3 節 「明確性要件」第8頁)。
しかしこれに該当しない場合として、同審査基準は第9頁、以下の記載例を挙げています。
「半導体基板の表面に被覆原料を堆積させる方法において、被覆原料を堆積させる際に半導体基板を回転させることにより、被覆原料の実質的に均一な供給を行うことを特徴とする被覆方法」
ここで「実質的」ということばが出ています。これは本来であれば不明確なことばであり、クレームの明確性の要件に違反します。しかし審査基準では、この文章は明確性に違反しない例として挙げられています。
これは明確性もケースバイケースで判断する必要があることの典型例です。被覆原料を半導体基板に完全に均一には堆積できないことが技術常識として知られており、「実質的に均一」と表現しても、明確性には反しないということです。
たとえ「実質的に」のことばを付けずに「均一に」と表現しても、「実質的に均一」を意味することになるでしょう。
半導体基板に被覆材料を堆積する、というシーンでは必然的に「実質的に堆積」することになります。

翻訳

Article 36 of the Patent Act provides that claims shall clearly state the invention to be patented. The Examination Guidelines for Patent and Utility Model in Japan (JPO) lists examples of unclear terms, such as “about", “approximately", “almost", “substantially", and “inherently" (Part II, Chapter 2, Section 3 “Clarity Requirement", page 10).
The same Guidelines list the following phrase to which this rule shall not apply (paraphrased):
“A coating method for depositing a coating material on the surface of a semiconductor substrate by rotating the semiconductor substrate to supply substantially uniform coating of the material".
The term “substantially" appears in this phrase, which you might think is unclear in its nature and thus goes against the Clarity Requirement for Claims. However, the Guidelines list this as an example in which the Clarity Requirement is not applied.
This is a typical example of determination of clarity on a case-by-case basis.
As it is common technical knowledge that a coating material cannot be deposited on a semiconductor substrate in a perfectly uniform manner, the expression “substantially uniform" is not unclear.
Even without the term “substantially", the expression “uniform" means “substantially uniform" in this phrase.
In such a scenario, it is natural that the coating material will be deposited in a substantially uniform manner on the semiconductor substrate.

奥田百子

東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)

著書

  • もう知らないではすまされない著作権
  • ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
  • 特許翻訳のテクニック
  • なるほど図解著作権法のしくみ
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