第132回「赤とんぼ」事件
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
1973年に下された裁判所の決定について話します。有名な「赤とんぼ」という博多人形が著作物であると判断された事件です。
前回、純粋美術と応用美術の話をしました。
絵画、版画、彫刻などの純粋美術は著作権で保護される、
装身具、文鎮、家具など実用品の美的創作物は応用美術であり、そのなかで一品製作の皿や壷などは美術工芸品として著作権で保護される
と述べました。しかしこの事件では、大量生産される博多人形が美術工芸品として著作権で保護されると判断されています。これは美術工芸品は一品製作には限られないことを意味します。
大量生産される人形の形状は意匠権として保護されるという理由で、著作権の保護は排除してはいけない、ということを裁判所は述べています。そして意匠と美的著作物の「重畳的存在を認め得る」と判断されています(昭和47(ヨ)53号、長崎地裁)。つまり大量生産される人形は意匠と著作権の両方で保護されてもよいということです。
前回紹介したTシャツの事件では、Tシャツという大量生産される製品に描かれた芸術的な絵が純粋美術と同視できる、と判断されました。これに対し「赤とんぼ」事件では大量生産される人形自体が著作物とされたという意味で重要です。
「赤とんぼ」という博多人形の「正面図」「背面図」
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/501/014501_option1.pdf
「最高裁判例」ウエブサイト「裁判例情報」
(昭和47(ヨ)53号、長崎地裁「別紙1」)よりダウンロード
Today, I will inform you of the court's decision, rendered in 1973, of a case in which a famous Hakata Doll named "Akatombo" (red dragonfly) was judged as a copyrighted work.
In my last blog, I told you about pure artistic works and applied works.
Pure arts such as paintings, woodblock prints, and sculptures shall be protected by copyrights; meanwhile, aesthetic creations of utility articles such as accessories, paperweights, and furniture are known as applied arts, and of these, individually produced articles such as plates or pots are classified as works of artistic craftsmanship and shall be protected by copyrights.
However, in this case, mass-produced Hakata Dolls were judged to be protected as works of artistic craftsmanship by copyright. This means that works of artistic craftmanship are not limited to individually produced creations.
The court held that mass-produced dolls shall not be excluded from protection by copyrights just because they are protected by design rights, and also judged that "cumulative existence of design and an aesthetic copyright work" can be approved (Showa 47(yo) No. 53 by Nagasaki District Court).
Namely, mass-produced dolls may be protected by both design rights and copyrights.
In the T-shirt case which I explained in my previous blog, it was judged that artistic pictures on mass-produced T-shirts can be regarded as pure art. On the other hand, the "Akatombo" case is significant because the mass-produced dolls were judged as protected by copyright.
Hakata Doll named "Akatombo"
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/501/014501_option1.pdf
「最高裁判所」ウエブサイト「裁判例情報Judgments」
Downloaded from "Supreme Court of Japan" website ("Judgements of the Supreme Court", Appendix 1 of Showa 47(yo) No. 53 by Nagasaki District Court)
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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