第140回カゴメが伊藤園のトマトジュース訴訟(3)
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
カゴメが伊藤園のトマトジュースの特許(5,189,667号)に無効審判を請求した事件の続きです。
請求項1,8,11には、(1)糖度、(2)糖酸比、(3)グルタミン酸とアスパラギン酸含有量の数値のみが記載されています。
しかし、トマトジュースにはほかにも様々な成分、要素が含まれているので、この3つの数値を特定するだけで、濃厚、甘味あり、酸味が抑制されたトマトジュースが本当にできるのでしょうか?
という疑問が判例で投げかけられ、以下のように判断されました。
- 仮に(1)〜(3)の数値特定で十分であれば、そのように明細書に記載すべきである。
- 他の要素も関係するのであれば、明細書に記載の風味試験では、他の要素(pH, クエン酸・・・)の条件をそろえておく必要があったのか(実際には、他の要素の条件をそろえずに風味試験がされている)、その必要はなかったのかを明細書に記載すべきである。
サポート要件は、
- 単に請求項に記載の事項が明細書に記載されていること要(請求項より明細書の方が記載が広いこと要)というだけでなく、
- 当業者が請求項に記載の事項をもとに、明細書の記載を参照しつつ発明の目的が達成できることが必要、つまり未完成発明ではないことも意味する点をこの判例は教えてくれました(平成28(行ケ)10147号、知財高裁)。
This is a continuation of the case in which Kagome demanded a trial for patent invalidation against Ito En's patent (No. 5,189,667) for tomato juices.
Claims 1, 8, and 11 specify numerical values of only i) sugar content, ii) sugar-acid ratio, and iii) content of glutamic acid and aspartic acid.
Tomato juices, however, contain other various components and elements, and the court cast doubt that specifying only these three numerical values can produce tomato juices having rich taste, sweetness, and controlled tomato acidity; accordingly, they judged as follows:
- if specifying numerical values of components i) through iii) is enough, this fact should be described in the specification; and
- if other elements (pH, citric acid, etc.) are involved, it should be described in the specification whether the conditions of those elements should have been constant (in actuality, the conditions of those elements had not been constant in the taste test described in the specification).
This court decision teaches us the following regarding the support requirement:
- matters described in the claims should be described in the specification (the specification should be broader than the claims); and
- a person skilled in the art should be able to understand the purpose of an invention based on matters described in the claims while making reference to the specification; namely, an invention shall not be uncompleted (Heisei28 (gyo-ke) No. 10147, Intellectual Property High Court).
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
- 改正・米国特許法のポイント
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