第252回伊右衛門とコカ・コーラのオープンクローズ戦略
弁理士、株式会社インターブックス顧問 奥田百子
話題になったこの本をぜひ紹介したいです。
「レシピ公開「伊右衛門」と絶対秘密「コカ・コーラ」、どっちが賢い?」
(新井信昭 著、新潮社)
このタイトルだけでも2つの知財戦略を表しています。
コカ・コーラの製法は厳重な秘密管理がされた営業秘密
これに対して、伊右衛門(サントリー)は特許を取得しているので、いわばレシピを公開しているようなものです。この特許のクレームはまるでレシピです。
「ケルセチン配糖体配合容器詰緑茶飲料」(6250353号)
この2つの例からわかるように、企業は技術開発をしたときに、営業秘密としておくか、特許出願するかの選択に迫られます。
営業秘密は、特許のような明確な権利が国家から与えられるわけではありません。企業は有用な営業上又は技術上の情報を「営業秘密」として秘密管理するだけです。
特許が与えられる発明は出願公開され、特許権満了後はパブリックドメインになります。特許取得には30万円以上かかります。しかし営業秘密にしておくことはほとんどお金がかかりません。
この本によると、この特許明細書にしたがっても、「伊右衛門」茶を完全に再現できるわけではなく、ある部分は営業秘密にしているそうです。この部分はオープン、別の部分はクローズのように綿密に決めていくことをオープン・クローズ戦略といいます。
I would like to introduce a book which has attracted attention.
"Which is wiser? Iemon, with its recipe disclosed, and Coca-Cola, kept strictly confidential" (Nobuaki Arai, Shinchosha)
The title in itself indicates two intellectual property strategies.
The production process of Coca-Cola is a trade secret that has been kept strictly confidential.
On the other hand, Iemon (made by Suntory) is a patented tea, which means that its recipe has been disclosed. The claims of this patent appear to be a recipe.
"Containerized green tea beverage containing quercetin glycoside" (Japanese Patent No. 6250353)
As seen from these two examples, a company which develops technology has to decide if its technology should be kept confidential as a trade secret, or filed in a patent application.
Trade secrets are not definite rights granted by the state as patent rights are. Companies are only required to keep useful and unknown technical or business information secret.
Inventions for which patents are granted are published, and become part of the public domain after expiration of the patent term. Fees of more than 300,000 yen are incurred to obtain a patent. Almost no costs are incurred for keeping information secret.
According to this book, people cannot reproduce Iemon tea perfectly based on the patent specifications because a certain part of the process of making Iemon is kept secret. Careful determination to keep a certain part secret, and to allow another part to be disclosed, is called Open and Close Strategy.
奥田百子
東京都生まれ、翻訳家、執筆家、弁理士、株式会社インターブックス顧問
大学卒業の翌年、弁理士登録
2005〜2007年に工業所有権審議会臨時委員(弁理士試験委員)
著書
- もう知らないではすまされない著作権
- ゼロからできるアメリカ特許取得の実務と英語
- 特許翻訳のテクニック
- なるほど図解著作権法のしくみ
- 国際特許出願マニュアル
- なるほど図解商標法のしくみ
- なるほど図解特許法のしくみ
- こんなにおもしろい弁理士の仕事
- だれでも弁理士になれる本
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