2025.02.26
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【品質管理課ブログ】世界に羽ばたく日本の言葉

【品質管理課ブログ】世界に羽ばたく日本の言葉

和英翻訳のチェック作業をしていて意外に思うことの1つが、ローマ字表記した日本語の人名が多くの場合、ワードのスペルチェック機能に引っ掛かっていないことだ。例えば、「Sato(佐藤)」、「Suzuki(鈴木)」、「Takahashi(高橋)」といった日本人の名字(「苗字」とも書く)のランキング上位3つはもちろんのこと(順位は名字由来netによる)、「Matsumoto(松元は799位だが、松本は15位)」、「Yamada(山田は12位)」、さらには500位の「Morioka(森岡)」——ただし、都市名の「盛岡」なども含まれていると思われる——など、多分マイクロソフト社の方でソフトウェアに覚えさせているのだろうと思うが、問題なく進む。なんだか、「英文に馴染んでますけど何か?」と問われているような気がする。ちなみに「Ishiba(石破16,272位)」には赤い波線表示が付されている。

意外な認知度

また、人名以外でも英単語として通用している名詞が多い。このところの外国人観光客の増加を受けて日本文化を英語で紹介する案件や、飲食店のメニューの英語版などに携わることもあるが、私がそれまで思っていた以上に英単語ぶっている。最近担当したものだと「shochu(焼酎)」、「yuzu(柚子)」、「shichimi(七味)」などがある。ただ「tsukudani(佃煮)」のように、ワードで赤波線が付き、さすがにまだそこまで英語圏での認知度が高くないと思われる単語には訳文の中で簡潔な説明を提案して担当プロジェクトマネージャーに提出した。日本起源の単語の英単語としての定着度や、英語圏でどのように説明されているかを確認するのに英語版の「Yahoo!」や「Wikipedia」をよく使うが、そこでの記述を見てみると面白い。

こうした現状を考えるに、私の子供時代に英語圏で知られる日本の言葉といえば「フジヤマ、ゲイシャ」のように言われていた——実際にはもっと多くの単語が輸出されていたのだが——ことを思うと隔世の感がある。そこで今回のブログでは日本語由来の英単語について書くことにした。ネット検索して調べてみると興味深い発見が多数あったので以下で紹介したい。ここで紹介できるのはそのうちのごく一部ではあるが、中には辞書に載って市民権を得ているものもあれば、スラングに過ぎないものもあり、英単語としての認知度にも差がある。

日本語由来の英単語を紹介

以下では、この文章を書いている2025年2月時点で「Oxford Learner’s Dictionaries(OLD:学習者向け英英辞書)」の見出し語として掲載されている語にはリンクを貼っている。おおよその発音をカタカナで、強勢の位置は太字で表記し、その単語が英語圏で初めて使用された年代と併せて記載している。私個人の主観に基づく「日本人から見た意外度」で三段階に分類した。なお、できるだけ信頼性の高い情報源を参照したつもりだが、同一の単語でも複数のウェブサイトで比較しながら見ると記載内容に差異があるため、絶対的に正確だとまでは言えないことをお断りしておきたい。

【意外度:★】

  • karaoke(発音:キャリオゥキー、語源:カラオケ、英語圏での使用:1970年代)

もともと「空(カラ)」の「オケ(オーケストラ)」からなる言葉だが、英語発音を初めて聞いたときは日本人として違和感を覚えたものだ。英語圏ではカラオケボックスのような個室ではなく、「カラオケバー」のように他の客の前で歌うのが一般的なようだ。

 

  • emoji(発音:イモゥジ、語源:絵文字、英語圏での使用:1990年代)

「emoji」が登場する前に覇権を握っていたのが「emoticon(顔文字)」すなわち、「emotion(感情)」と「icon(アイコン・偶像)」が組み合わさった語である。日本版の「(^_^)」や「(*´ω`*)」とは異なり、西洋では「:-)」や「:D」のように左に90度傾けたものが多く使われているようで、初めて見たときは顔文字だとは分からなかった。スマホの普及以降、感情を表すのに絵文字が主流派を占めているが、英語話者の中で「emoji」が日本語由来の「絵」+「文字」だと知っている人がどれくらいいるのだろう。単に偶然の類似性によるものだが、「emotion」という単語に結び付けている人が多いのではないだろうか。

 

  • haiku(発音:ハイクゥ、語源:俳句、英語圏での使用:1870年代)

日本の俳句は、形式にとらわれない「自由律俳句」というものもあるが、一般的には季語を含み、五・七・五の十七音の型で作ることを基本とする定型詩である。一方、英語の「haiku」は17音節(syllable)以内で書かれた3行の詩として捉えられていて、自然や季節を題材にすることが多いようだ。米国では「Haiku Society of America(アメリカ・ハイク協会)」という団体が活動していて、毎年コンテストを開催している。入賞作品を見ると音節数にあまりこだわりはないらしい。

 

【意外度:★★】

  • kaizen(発音:カイン、語源:改善、英語圏での使用:1980年代)

日本語の「カイゼン」は、製造業の現場で作業効率や安全性を見直す活動で、特にトヨタ式カイゼン活動は同社の生産方式の強みの一つとして知られている。この言葉が英語圏に伝わったのは、高度経済成長を経て安定成長に移行し、日本企業が世界で圧倒的な存在感を確立していた時代のことだ。日本車に市場シェアを奪われた米自動車大手の業績が悪化するなど、日米貿易摩擦が拡大していた当時、米国では日本の製造業の強さの秘密を研究していた。また、円高などの影響もあり日本の製造業が海外進出して現地生産をする際に現地従業員に「kaizen」を指導したことで、今では世界的に知られる言葉となっている。

 

  • kanban(発音:ンバン、語源:看板、英語圏での使用:1970年代)

ここでは、「かんばん」と言われて真っ先に思いつく、広告・案内表示のことではなく、在庫管理手法のことで、これも「ジャスト・イン・タイム」で知られるトヨタ生産方式に関連するビジネス用語だ。無駄を徹底的になくし効率的な生産を実現するため、部品箱1つ1つに「かんばん」をつけているそうだ。

 

  • tycoon(発音:タイクーン、語源:大君〔たいくん〕、英語圏での使用:1850年代)

現在では、実業界で成功し富と権力を得た人物という意味で使われており、「tech tycoon(ハイテク界の大物)」などの表現がある。Merriam-Webster辞書(MW)の説明によると、1858年に日米修好通商条約を締結したことで歴史の教科書に名を刻んだ初代米国総領事ハリスが大君(江戸時代に外国に対して用いた徳川将軍の称号)という言葉を知ったことがこの単語の米国デビューのきっかけで、米国本土で南北戦争時に最高指導者という意味で広まったそうだ。

 

  • rickshaw(発音:クショー、語源:人力車、英語圏での使用:1870年代)

人力車の「ジン」がなくなったらしい。馬でも牛でもガソリンでもなく人が動力源だということがこの語の重要な要素なので、「ジン」を落とすなよと言いたくなるが…。明治時代に日本で発明され、大正時代まで重要な交通機関として普及した人力の二輪車だ。現在の日本で「人力車」といえば主に観光用の車両を連想させる程度にとどまっているが、海外では「rickshaw」という乗物自体も改良が進んだのと同時にこの単語も進化を遂げ、インド、東南アジアその他世界中で活動範囲を拡大して「cycle rickshaw(ペダル式三輪車)」や「autorickshaw(原動機付き三輪車)」という派生語が生まれている。スパゲティの存在を知った日本人が「スパゲティナポリタン」を生み出したようなものだろうか。なお、Yahoo!で検索すると「Spaghetti Napolitan (Japanese Ketchup Pasta)」と出てくる。「ナポリ風なのか日本風なのかどっちだよ!」と思わず突っ込みたくなった。

 

【意外度:★★★】

  • hibachi(発音:ヒバーチ、語源:火鉢、英語圏での使用:1860年代)

平成、令和世代にはなじみが薄いと思うが、少年時代の私の実家では、当時としても珍しかったのだが冬の風物詩として火鉢が活躍していた。練炭を燃やして暖を取り、湯沸かしや餅を焼くといった簡単な調理にも使われてはいたが、本来は暖房器具だ。昔ながらの日本家屋では換気性能が高く——気密性が乏しかったとも言えるが——一酸化炭素中毒の危険性が低かったため普及していた。これが英語の「hibachi」となると、屋外のバーベキューに使われる、木炭を燃料とした持ち運び用グリルのことで、火鉢というよりもむしろ七輪のような存在だ。

 

  • futon(発音:フートン、語源:布団、英語圏での使用:1870年代)

「Yahoo!」の「Images(画像)」や「amazon.com」の英語版で検索すると分かるが、日本の布団(敷布団、掛布団)かと思いきや別物が出てくる。背もたれと脚がついており、私たち日本人目線からするとほとんどがソファーに近い代物だが、「sofa bed」と比較すると「futon」の方が低価格、軽量で持ち運び可、スペースを取らないといった特徴があるそうだ。例えるなら、寿司屋で板前さんに「おまかせ」を注文したらカリフォルニアロールが出てきたような、狐につままれたような感じがする。それはそれでありかなとは思うが、「そーじゃない感」が頭をよぎる。ただ、日本人だって鉄筋コンクリートの集合住宅を「マンション」と呼んでいるので、お互い様ではある。英語の「mansion」は大豪邸の意味であり、1つの居住区画だと「apartment」、建物全体だと「apartment building」という。

 

  • honcho(発音:ンチョウ、語源:班長、英語圏での使用:1940年代)

主に米国のくだけた表現で「boss」の同意語のように使われているそうだ。辞書で発音を確認するとイギリス発音だと「ホンチョウ」と聞こえるが、アメリカ発音だと日本人が「班長」と言っているのと大差ない。MWの説明だとこの単語は、太平洋戦争の終戦間際に米国人捕虜が日本で囚われの身になっていた当時に覚えたものらしい。陸軍元帥で第34代大統領を務めたアイゼンハワーは1952年のロサンゼルス・タイムズで「chief honcho(最高責任者)」と呼ばれたそうだ。

 

  • kombucha(発音:カンチャ、語源:昆布茶、英語圏での使用:1900年代)

「kombucha」は日本で飲まれている「昆布茶」とはまったくの別物だ。日本語では「紅茶キノコ」という名称でも知られているそうだが、昆布でもなければ、キノコでもないので、ますます紛らわしい。実体は紅茶を原料とする甘い発泡性の発酵飲料。健康効果をうたい、様々な味付けをして販売されているそうだ。この飲料の発祥は中国だと言われており、ロシアから欧州を経て米国にも広がったらしい。

 

  • satsuma(発音:サマ、語源:薩摩、英語圏での使用:1860年代)

温州みかんである。芋ではない。みかんと言えば和歌山、愛媛、静岡などが都道府県別収穫量の上位を占めており、鹿児島というイメージは一般的に持たれていないと思うが、現在の同県長島町が温州みかんの発祥地といわれているそうだ。なお、放送大学によれば当時のアメリカでは、温暖な南部のフロリダ州を商業果実栽培の国際的な拠点に育成しようと考えており、世界中から優れた果実の品種を集めていた。その一つが温州みかんで、1876年に苗木が初めてアメリカにもたらされたとのことだ。また、Wikipediaによると「Satsuma」という地名が米国アラバマ州、ルイジアナ州、テキサス州、フロリダ州にあるそうだ。由来はもちろん、みかんだ。

 

  • skosh(発音:スコーシ、語源:少し、英語圏での使用:1950年代)

MW辞書によると、戦後GHQによる占領統治が行われていた時代に米国人兵士が覚えた言葉だそうだ。意味は日本語の「少し」のままだが、「sukoshi」という綴りと発音は英語話者には母音が多すぎるのだろう。OLDには登場しなかったが、「MW」と「Collins」には名詞として載っている。“I’m fine, just a skosh tired.”(大丈夫だけど少し疲れている。)みたいに「a」を付けて副詞的に使われることもあるそうだ。

 

参考まで

Oxford English Dictionary(Learner’s版ではなく)」の2024年3月のアップデートで日本語由来の23語が追加されたそうだ。現時点で見出し語数は577語あり、圧倒的に名詞が多い。有料版を申し込まないと使用できる機能に限度があるが、使用頻度(Frequency)や登録日(Date)で並べ替えができる。使用頻度1位は「dan(段の意、柔道などの段位)」で現代英語の書き言葉としては100万語に6回だとのこと。8段階のうちの上から5番目に位置付けられている。最も古い単語として登録されているのは1577年の「bonze(僧侶の意、「坊主」に由来)」となっている。

 

終わりに

普段は特に意識することもないのだが、中には「anime」のように、もともと英単語の「animation(アニメーション)」が日本に入って「アニメ」となり、後に英語に逆輸入されたという単語もある。また、「rickshaw」のように外国からの借用語がその後現地で独自の発展を遂げるという現象は日本語由来の単語に限らず、古来、人類の営みとともに世界中で起こっているのだろう。私たちの言葉が世界に羽ばたいて活躍している姿を頼もしくも思う一方、何か手の届かない遠い存在になってしまったような一抹の寂しさも感じるのは私だけだろうか?

 

書いた人

 

品質管理課メンバー:Tall Bridge Hero
最近、ChatGPT大先生と仲良くなっており、日常的に活用している。業務中に訳抜け、誤訳、文法エラーなどを修正する際に自分で書いた英訳のチェックをかけたり、適切な訳が思い浮かばない時に訳例を質問したりしている。仕事外でも、英字新聞を読んでいて記事の内容がいまいちピンとこない時に、コピペして説明してもらうことも多い。もちろん、大先生といえどもそこに書いてあることが全て正しいとは限らないので、裏取りをする努力を怠らないこと、内容の正否を判断する力をつけることの重要性は肝に銘じている。

 

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