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2025.01.15
スタッフブログ

【品質管理課ブログ】中国語と「一国三訳」

【品質管理課ブログ】中国語と「一国三訳」

「一国三訳」とは、中国語で英語やフランス語などの外国語を訳すとき、3つの異なる訳し方が存在する、という意味です。2009年に香港の新聞『文滙報』に掲載された「『一國三譯』折射兩岸三地文化」(「一国三訳」が両岸三地域の文化を反映する)という記事によれば、1つは中国大陸の標準語である「普通话」、2つ目は「香港粵(えつ)語」(香港の方言)、3つ目は台湾の標準語である「國語」(「台湾華語」ともいう)です。いずれも漢字を使用している地域なのに表記が異なるのは、歴史的背景や地域性が影響しているからです。

今回の「品質管理課ブログ」は中国語にまつわる雑学をご紹介しましょう。

3つの中国語

中国では古代から画数が多い繁体字を、縦書きで表記していました。1949年の中華人民共和国成立後は、読み書きの難しい漢字を簡略化して覚えやすくしようという運動が起こり、漢字の画数を大幅に減らした「简化字(簡体字)」が制定され、1958年に発音をローマ字で表す「ピンイン法」が定められたため、縦書きから横書きになりました。

香港は1997年までイギリスの植民地だった関係から、香港・広東地域で話される方言の「香港粵語」(いわゆる香港語。広東語とは語彙が多少異なる)と英語が公用語で、漢字は昔のままの繁体字を使っていました。1997年7月1日の中国返還以降は簡体字教育が進められています。書き言葉は大陸の中国語と英語、会話では香港語を使い分けるトリリンガル地域です。

台湾は清朝頃に大陸から移住してきた人々が閩南(びんなん)語を話していましたが、1949年に国民党が支配するようになり、当時中国北方で使用されていた言葉に現地の言葉を取り込んで、公用語「國語」を制定しました。使用する漢字は繁体字です。横書きのスタイルもありますが、基本は縦書きです。

「音」と「義(意味)」による翻訳

細かい違いはさておき、この3つの言葉の面白いところは、外来語表記がそれぞれ異なる点です。日本語のようにカタカナという便利なツールを持たない中国語は、外来語を表記する際に「音+意味+その言葉にハマる字」を用いて、漢字で表現しています。

例えば国名では「イタリア」は「意大利(Yidali)」、アメリカは「美利坚(Meilijian)」、フランスは「法兰西(Falanxi)」などなど。日本語ではアメリカを「米国」と言いますが、中国語では「美国」となり、フランスの略語は日本語の「仏」に対して「法」となります。それにしても「アメリカ」がなぜ「美利堅(メイリジエン)」になるんでしょうか……。

聞くところでは、中国の清朝末期にアメリカを「亜美利駕(Yameilijia)」と称していましたが、中国人革命家の文章にアメリカを指す言葉として「美利堅」が使われたことから、その呼び方が定着したとか。日本では江戸末期に「亜墨利加」と当て字をしていましたが、アメリカに渡った船乗りのジョン万次郎が「米利堅」と呼んでいたことから、これが広まったということです。同じ「メリケン」でも中国では「美」、日本では「米」。ジョン万次郎が「米」の字を当てた理由が知りたいものです。

地域特有の外来語表記

さて、ほとんどすべての外来語を漢字で表現する中国語ですが、3つの地域では翻訳の表記が異なる場合があります。国名では音が同じでも漢字が違ったり、意味で訳したりとさまざまです。

  中国 香港 台湾
イタリア 意大利 義大利 義大利
モンテネグロ 黑山 蒙特內哥羅 蒙特內哥羅
ニュージーランド 新西兰 紐西蘭 紐西蘭
韓国 韩国 南韓 南韓
北朝鮮 朝鲜 北韓 北韓

また、映画や漫画のタイトルなどの翻訳には、内容によっていろいろなパターンがあります。

  中国 香港 台湾
タイタニック 泰坦尼克号 鐵達尼號 鐵達尼號
ベイマックス 超能陆战队 大英雄聯盟 大英雄天團
ミッション・インポッシブル 碟中谍 職業特工隊 不可能的任務
トップガン 壮志凌云 壯志凌雲 捍衛戰士
パラサイト 寄生虫 上流寄生族 寄生上流
スラムダンク 灌篮高手 男兒當入樽 灌籃高手
キングダム 王者天下 KINGDOM 战臣 王者天下
ドラゴンボール 龙珠 龍珠 七龍珠

3つの地域はこのようにそれぞれ異なる外来語表記を持っていますが、地域の交流が進むとともに次第に言葉も受け入れられ、広まっていくようになります。例えば香港で使われている言葉が中国で流行り、浸透していく現象はよく見られます。

「コンピューター」はもともと中国では「计算机(計算機)」と呼んでいましたが、香港や台湾の「電腦(電脳)」という言葉が浸透して、中国でも今では「电脑」が一般的になっています。また、「(ファッションショーなどの)ショー」は標準中国語の「表演」に代わって台湾地域の「秀(xiu)」(「show」の音訳)が普通に使われるようになりました。

これは中国語の例ですが、ほかにも似たような事例は世界各国にあると思います。読む人・使う人の立場に立った翻訳を心がけたいものです。

※参考文献 「『一國三譯』折射兩岸三地文化」香港『文匯報』2009年8月3日

 

書いた人

 

品質管理課メンバー:Helen(中国語:海伦/海倫)
中国語をメインに翻訳チェックと校正・校閲を担当。子どものころから『西遊記』の孫悟空に憧れ、漢詩漢文が大好き。大学も就職先もお堀端で、靖国神社と千鳥ヶ淵が遊び場の古き良き時代を過ごす。中国語を始めたのが25歳という遅咲きの桜ながら、その後商社・メーカーを渡り歩き、たどり着いたのが大学と出版社という遍歴の持ち主です。

 

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