- 2024.07.15
- 翻訳外注ノウハウ
【翻訳用の原稿を作るときに】大切な 9つのポイント
翻訳業界では、翻訳の元になる文書(原稿)のことを「ソーステキスト(または原文)」と呼び、そこに使われている言語を「ソース言語」と呼びます。たとえばある文書を「日本語から英語」に翻訳する場合、日本語の原稿がソーステキストであり、ソース言語は日本語になるのです。
翻訳はグローバル化(世界標準化)、国際化(インターナショナライズ)または、ローカライズ(現地最適化)の過程で必要となる、成功と失敗を分ける重要な要素であるにもかかわらず、見落とされがちなのがこのソーステキストの質(品質)です。ソーステキストは言うまでもなく翻訳された文章の元となるものであり、翻訳する言語の数が増えるほどその質が翻訳後の文章の出来具合に与える影響も大きくなります。
だから翻訳に成果を求めるのであればソーステキストの質を上げることが先決なのです。本コラムでは、あらゆる言語にシームレスに翻訳展開するための、ソーステキストの作成方法についてご説明します。
文章は簡潔なものにする
翻訳された文章の質と読者の理解度を高めるためには、ソーステキストはなるべく短く、できれば一文(句点で終わる文)あたり40文字以下を目安にしましょう。Microsoft Wordで文書作成している場合は、ショートカットキー「Alt+T+W」ですぐに文字数を確認することができますが、デフォルトのフォントサイズ(10.5ポイント)なら一行が約40文字ですので、思いのほか短いことがわかります。
ただし、できるかぎり短くといっても単純に文章を小分けにすれば良いということではありません。「どうすればもっとシンプルに伝えることができるか?」「どうすれば一度読んだだけで内容が頭に入るようになるか?」と考えつつ、ときには音読しながら何度も読み直して推敲(ブラッシュアップ)しましょう。
正確な語順で文章を作成する
日本語の語順は「S(主語)O(目的語)V(動詞)」が一般的ですが、それに付随する修飾語も含め、正しい文法構造と適切な句読点が施された文章を作成するようにしましょう。翻訳の元となるソーステキストは「SOV」という単純構造の短い文章ではなく、多くの修飾語を加わえた長文であることがほとんどです。だからその文法が破綻していたり、「てにをは」の使い方を間違えたりしていると、翻訳の難易度が上がる一方、翻訳の品質が低下する可能性が高くなります。
英語の語順が日本語のそれとは異なる「S(主語)V(動詞)O(目的語)」であることだけを考えても、翻訳が単純な言語の置換作業ではないことがおわかりいただけるのではないでしょうか。ソーステキストの語順や文法の間違いを指摘するのは本来翻訳者の仕事ではないことを念頭に、正確な語順で文章を作成するようにしましょう。
長い名詞の使用を避ける
長い名詞とは「名詞文字列」つまり、複数の名詞が連なってひとつの名詞を形成しているものを指します。長大語の一種で下に示すようなものですが、このように長い名詞の場合、読者はそれぞれの名詞の関係性を推測しなければならなくなるだけでなく、文章を理解するために何度も読み直す必要が生じます。さらにそれが複数の言語に翻訳されるとなるといかがでしょうか。
ソーステキストの解釈を間違うか、区切りを間違えた上での、単純な言語の置き換えになってしまう可能性が高まることがおわかりいただけると思います。だからソーステキストを作成する際は、長い名詞の文字列の使用はなるべく避けるようにしましょう。
長大語の例 |
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用語を統一する
同じ対象を指したり同じ意味を成すにもかかわらず異なった用語(同義語)を使うと、文章としての明快さが失われるだけでなく翻訳の品質低下にもつながるため、用語は統一するようにしましょう。用語が統一されていないと、文章全体の一貫性に悪影響を与えるだけでなく、翻訳支援ツールを使って翻訳する場合などは翻訳品質の安定化、コストダウン、納期短縮といった、翻訳メモリの貢献度も低下してしまいます。
逆に言えば、用語や表現がきちんと統一されたソーステキストは翻訳作業や翻訳コストそして、翻訳結果に良い影響を与えるということです。だからソーステキストを作成する際は、用語をかならず統一するようにしましょう。
内輪ネタの使用を避ける
独自の文化、歴史、背景に基づく表現や、専門用語、方言、比喩など、特定の対象にしか理解できない内容といった、いわゆる内輪ネタの使用は避けるようにしましょう。理解に必要な土台は万国共通ではないため、そのまま翻訳しても通じないだけでなく、苦労して翻訳しても等価性を維持することはほぼ不可能です。
もしどうしても内輪ネタを使用する必要がある場合は、ソーステキストを元にするのではなく、同じ評価を得られるまったく新しい文章に翻訳することをお勧めします。ただし、この作業は「トランスクリエーション」と呼ばれ、言語の置き換えを主とした翻訳というよりキャッチコピーのクリエーションに近いものになるため、翻訳に掛かるコストは上がります。ゆえにソーステキストを作成する際は、内輪ネタの使用は避けるほうが無難でしょう。
数値に気を付ける
ソーステキストを作成する際は、日付、時刻、通貨や単位といった数値にも十分気を付ける必要があります。言うまでもなく単位やその表記は国によって変わります。重量、距離(長さ、高さ)や気温などの違いについては一般的ですが、日付も数値(月日)の表記順が国によって異なることなどは忘れがちです。
これらは国や言語によって細かく変化するものであるため、スタイルガイドという「文章のルールブック」に基づき、どのように表記するかあらかじめ決めておく必要があるものですが、それが難しい場合は翻訳会社などに知恵を借りるのも手です。ただし、重量や距離の換算(キロメートルをマイルにするなど)は本来翻訳者の仕事ではありませんので、そういったことも念頭に、ソーステキストを作成する際は使用する数値に気を付けるようにしましょう。
代名詞の使用を避ける
代名詞は同じ内容を何度も繰り返さないように、代わり使う名詞のことで「あなた、わたし、彼、彼女(複数形も含む)」といった人称代名詞や、「あれ、これ、それ」といった指示代名詞などがありますが、これらを多用するとそれが誰、何を指すのかが曖昧になるのでなるべく使用しないようにしましょう。
日本語はハイコンテクスト(書かれていないことまで含めた文脈重視)、英語はローコンテクスト(書かれている内容重視)であることはよく知られていますが、同じ文化、歴史背景や価値基準を持つ日本人同士であれば通じることや想像できることでも、異なる言語、異なる文化、歴史背景や価値基準を持つ国の人にとってはそうではありません。
代名詞は書き手の思惑と読者の想像力および、その正確性に依存するところが大きいため、ソーステキストを作成する際はなるべく使用しないことをお勧めします(ハイコンテクストとローコンテクストについて詳しくはWikipediaをご参照ください)。
なるべく能動態を使うようにする
「この文章は彼によって書かれた(受動態)」「彼がこの文章を書いた(能動態)」は同じ内容を受動態と能動態で表現したものですが、ソーステキストを作成する際はなるべく「能動態」を用いるようにしましょう。この例からもわかるように、能動態を使うことで文章が明確かつ、直接的で自然なものになるからです。
もちろん時と場合によっては受動態を使ったほうがよいケースもあると思いますが、特にこだわりがない場合は能動態を使うほうが単刀直入でメッセージが伝わり易く、誤解を生む可能性を減らすことができます。前述の代名詞同様、ソーステキストからは曖昧さや判断に迷うもの、翻訳の進行の妨げとなるものは排除しておいたほうが良いので、ソーステキストを作成する際はなるべく能動態を使うことをお勧めします。
難解な言い回しを避ける
翻訳することを前提にしているのであれば、そのソーステキストはなるべくシンプルで誤解を生まないものが好ましいのはここまで述べてきたとおりです。しかしそれらは強く意識しないと、つい難解な言い回しを使ってしまいがちです。難解な言い回しでなければ伝わらない文章というものはこの世にほとんどありません。慣用句や故事成語、難しいビジネス用語カタカナ語、業界の専門用語もそのひとつですが、むしろそれらを使うことでソーステキストの理解をより難しくしてしまう可能性すらあります。
難解な言い回しは往々にして読み手の理解を想定していない、つまり読者への気遣いが足りないがために使用されてしまいがちですが、同じ言語を使う人同士であっても、同じ知識レベルでなければ誤解につながるものです。だからソーステキストを作成する際は、読み手が理解できるか、伝わるか、を念頭に、難解な言い回しを避けるようにしましょう。
最後に
グローバルメーカーが製造し、世界中に販売する製品に付随するマニュアルや取扱説明書、チラシ、カタログといった一部の文書を除き、翻訳用の原稿を作成することはあまり身近ではないと思います。実際には、新たに作成するのではなく、すでに作成済みの日本語の文章を外国語に翻訳することになったというケースがほとんどだと思いますが、その場合でも翻訳を依頼するためにそのソーステキストをしっかり推敲しておくことを強くお勧めします。
翻訳を含め、異文化とのコミュニケーションにはある程度の勉強と練習そして、何よりも理解が必要です。読者にとって理解し易い、伝わる翻訳をするにはまずソーステキストをよく見直すことです。洗練されたソーステキストは、翻訳者が翻訳の質を高めることに集中することを促すだけでなく、翻訳時間の短縮や翻訳コストの削減にもつながります。目的に合った、成果につながる翻訳を得るためにもソーステキストの推敲は積極的に行いましょう。
まとめ
以上、「【翻訳用の原稿を作るときに】大切な 9つのポイント」でしたがいかがでしたでしょうか。
当社は翻訳の目的や、翻訳する文書の特徴、性質などを正しく理解、見極め、相手国の文化的背景を念頭に、ホームぺージや契約書、取扱説明書、プレゼン資料、リリース、ゲーム、アプリその他あらゆるビジネスで必要なドキュメント、テキストの「プロ翻訳者による翻訳」を、英語を中心に世界85か国語で行います。
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