2023.09.22
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翻訳コラム:「馬脚」は何の足?

「ぼろを出す」「露見する」ことを「馬脚をあらわす」と言いますね。この諺は中国から来ています。その起源には諸説あって、なかなか興味深いものがあります。
 
一番有名なのが、明の太祖・朱元璋の奥さん、馬皇后の話です。 朱元璋は身分の低い貧農の出身で、元朝末期の動乱の中で頭角を現し、明朝を建てた人物です。その「糟糠の妻」が馬皇后でした。馬氏は実の両親もわからない卑賎の生まれでしたが、人柄が良く聡明で、内助の功を発揮して夫を助けた賢婦人でした。馬皇后が50歳そこそこで亡くなると、太祖朱元璋は嘆き悲しんでその後は新たな皇后を立てなかったほどです。 そんな馬氏は皇后になると困った問題が起こりました。当時貴族の娘は纏足(てんそく)の習慣があったため、皆とても小さな足をしていました。ところが馬皇后は貧しい田舎の出身ですから、大きな足のままです。そこで宮中に入ると威厳を保つために、足が見えないように長いスカートを着用していました。 ある日、皇后は輿に乗って街中に出かけました。人通りのある道を進んでいったとき、強い風が吹いて皇后のスカートをめくりあげてしまったのです。これは大変、気をつけて隠していた大きな足が、人々にばれてしまいました……
 
もう1つは勇猛な将軍、南宋の岳飛の話です。 南宋はその末期、金国との戦争に手を焼いていました。そこに登場したのが今でも英雄と称えられる将軍・岳飛です。(杭州の岳王廟に祀られています。)金軍は岳飛の部隊に散々に打ちのめされると、新たな作戦に出ました。軍馬に鉄の鎧を着けさせて3頭ずつ革ひもでつなぎ、防御力と攻撃力を強化したのです。 岳飛はこの軍馬の隊列を見て、馬の胴体は鎧で覆われていますが足はむき出しのままであることに気がつきました。馬は3頭つながれているので、1頭の馬が足を負傷すれば他の馬も巻き添えになり、敵は人馬もろとも倒れます。こうして岳飛は金軍の攻撃を難なく打ち破ったのでした。(この話は中国の正史『宋史』「岳飛伝」に出ています。)無敵のように見えても、「馬脚」という弱点までは隠せなかったのでした。
 
もう1つ。ある盗賊が金持ちのロバを盗み、茂みに隠していたのですが、茂みの下からロバの足が出ていたことが見つかって、盗みが露見してしまったという話もあります。こちらは「馬脚」ではなく「驢脚」をあらわす、ということでしょうか。
 
ことわざ1つ取っても、その由来や起源にはさまざまな物語があります。ときには言葉とともに歴史を旅してみるのも楽しいかもしれません。
 

▼書いた人
翻訳・チェッカー課 S
日中・中日翻訳作業はもちろん、出版社での校正業務の経験を活かし日本語の校正作業も担当。中国古典に造詣が深い。

 


 
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